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鹿児島家庭裁判所 昭和55年(家)1298号 審判 1981年8月21日

申立人 上山啓

相手方 上山長春 外七名

主文

一  本籍鹿児島県日置郡○○町○○××××番地被相続人亡上山長義の別紙遺産目録記載の遺産を次のように分割する。

相続人氏名

分割財産(別紙遺産目録番号により表示)

申立人 上山啓

相手方 上山長春

相手方 上山長利

相手方 寺田マキ

相手方 上山三次

相手方 上山長二

相手方 佐藤トシ子

相手方 大村ヌイ

相手方 三田やす子

(1)の持分二分の一、(2)、(18)、(19)の持分二分の一、(27)、(36)、(42)、(77)のうち付属二階建倉庫一棟

(17)、(19)の持分二分の一、(65)の持分四分の一、(66)の持分二分の一、(77)のうち居宅一棟付属物置二棟炊事場一棟

(6)、(10-1)の持分二分の一、(11)の持分二分の一、(33)、(38)の持分二分の一、(39)の持分二分の一、(40)の持分二分の一、(65)の持分四分の一、(66)の持分二分の一

(10-2)、(11)の持分二分の一、(12)、(15)、(16)、(21)、(48)、(61)、(64)、(68)

(1)の持分二分の一、(7)、(8)、(9)、(30)、(31)、(32)、(38)の持分二分の一、(39)の持分二分の一、(40)の持分二分の一、(53)、(65)の持分二分の一、(67)、(70)、(73)(4)、(5)、(10-1)の持分二分の一、(44)、(46)、(47)、(72)、(77)のうち付属廐舎一棟

(20)、(22)、(26)、(34)、(37)、(41)、(52)、(60)、(62)、(63)、(69)、(71)

(14)、(24)、(28)、(29)、(5)、(54)、(56)、(57)、(58)、(59)、(76)

(3)、(13)、(23)、(25)、(35)、(43)、(45)、(49)、(50)、(55)、(74)、(75)

二  相手方上山長春は、申立人に金一〇万円、相手方寺田マキに金一四万円、相手方三田やす子に金五万円の各支払債務を負担するものとする。

三  相手方上山長利は、相手方佐藤トシ子に金一四万円の支払債務を負担するものとする。

四  相手方上山三次は、相手方大村ヌイに金一四万円の支払債務を負担するものとする。

五  相手方上山長二は、相手方三田やす子に金九万円の支払債務を負担するものとする。

理由

申立人は、被相続人亡上山長義の遺産について法律上適正な分割を求める旨申立てた。そこで、以下、これについて順次判断する。

第一相続の開始及び相続分

本件記録中の各戸籍謄本によれば、被相続人上山長義は昭和二六年三月三日死亡したこと、次いで同人の遺産分割が行われる前に同人の妻である上山テイが昭和五二年七月三一日死亡したこと、申立人及び相手方八名の計九名は、いずれも被相続人と亡上山テイ間の子であり、上記九名以外に相続人の存しないことが、それぞれ認められる。従つて、上記相続人の相続分は各九分の一宛となる。

第二遺産の範囲及び現状

本件記録中の各登記簿謄本、鹿児島家庭裁判所家庭裁判所調査官○○○○作成の各調査報告書、大津家庭裁判所家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書、申立人並びに相手方上山長春、同上山長利、同上山三次、同上山長二、同寺田マキ及び同佐藤トシ子に対する当裁判所の審問の結果に本件調停の経過を総合すると、本件相続開始時点において被相続人の所有に属していた財産は別紙遺産目録記載の各不動産であり、他にみるべき動産・預金等は存在しないし、債務も存在しないこと、申立人並びに相手方上山長利、同上山三次は被相続人の生前に贈与を受けた財産の存すること、特に申立人には農地法による買収形式をとつて所有権を取得した物件が可成り存すること、被相続人死亡後「仮分け」と称して、被相続人の妻テイ及び嫡男相続人に事実上遺産の分割がなされ、それぞれが管理していること、テイ死亡後は相手方上山長春がテイ名義分について納税等も含めて管理していること、の各事実を認めることができる。

ところで、申立人が、被相続人の所有に属した可成りの不動産につき農地法による買収手続をもつて所有権を取得していることについてみると、その前後の事情に照らし、これらはいずれも実質的には生計の資本としての贈与と窺われなくもない。

しかしながら、相手方らは全員、当裁判所に対し、相続開始時点において被相続人の所有に属していた財産即ち別紙遺産目録記載の各不動産のみを遺産として分割されればよい旨を申述し、申立人に例え特別受益が存したとしても、これについては事情として考慮されれば足り、遺産の範囲からは除外してよい旨申述しているものであつて、もとより申立人にも異存のないところである。しかして、本来遺産分割が当事者間の合意によりなさるべきものであることに鑑みれば、本件審判においてもこれに従うのが相当である。そこで、申立人について窺われる特別受益の存在についてはあえて考慮せず、別紙遺産目録記載の各不動産のみを遺産分割の対象たる遺産の範囲として確定する。

第三遺産の分割

本件遺産分割に当つては、当事者全員現物による分割を希望し、各不動産の価格については多額の費用を要する価格鑑定を回避して、伊集院税務署の相続財産評価格を用いて計算することを求めている。そこで、本件遺産分割に当つては、本件記録中最新の資料である昭和五四年度の固定資産名寄帳兼課税台帳に登載されている昭和五四年評価額に、伊集院税務署において用いられる指数(宅地一・七倍、田二・〇倍、畑二・九倍、山林及び原野二・五倍)を乗じて算出した価格(別紙遺産目録相続税評価格欄記載のとおりである)を用いることとする。

そこで、上記相続税評価格によつて別紙遺産目録記載の各不動産の価格を合計すると金五〇六万五四九七円となるから、これを相続人九名に均分すると、各相続人一人当りの分割価格は金五六万二八三三円宛となる。従つて、各相続人に対し、前記分割価格相当宛の遺産を平等に分割することとなる。

ところで、本件においては、前記認定のとおり、被相続人死亡直後、当事者全員の合意により仮分けとして嫡男相続人に対し事実上の分割がなされ、既にそれぞれが仮分けを受けた不動産を耕作しないしは納税義務の履行といつた管理をなしてきていること、また、他へ嫁した相手方寺田マキ、同佐藤トシ子、同大村ヌイ、同三田やす子は、これまで遺産の管理には関与せず、本件遺産分割に当つても是が非でも嫡男相続人と同額相当の不動産の分割を希望するというものではなく、嫡男相続人らが本件遺産分割を廻つて醜い争いを展開して止まるところを知らない状態にあることを目の当りにして、それならば自分たちも一応法定相続分の取得を希望しておこうとの意図に出ているとの事情にあることが認められ、これらの事情に各相続人それぞれの取得希望等諸般の事情を総合して考えると、本件各不動産を主文一掲記の表記載のとおり分割したうえ、前記分割価格に足りない分割しか受けられなかつた相続人らに対しては調整金をもつてこれを調整することとするのが相当である。

ところで、各相続人につきそれぞれ主文一掲記の表記載の不動産の相続税評価格を合計すると、申立人金四六万五二八七円、相手方上山長春金八五万二八七七円、相手方上山長利金六九万八六三二円、相手方寺田マキ金四二万六六四八円、相手方上山三次金六九万七二八一円、相手方上山長二金六五万四七一四円、相手方佐藤トシ子金四二万〇八四〇円、相手方大村ヌイ金四二万二七一四円、相手方三田やす子金四二万六五〇〇円となり、その間に若干のアンバランスを生ぜざるを得ない。そこで、これを調整金により調整することとするわけであるが、本件においては、前記の様な事情で鑑定評価が存しないため、各不動産の正確な時価が不明であるが、当事者全員が時価による分割を求めているものではないので、調整金についても分割の基準とした相続税評価格をもつて調整してよいとの趣旨と解され、この価格と時価との差額については、その請求権を放棄する趣旨と解される。そうすると、前記分割価格以上に相当する不動産の分割を受けた相続人らは、前記分割価格を超過した金額を債務として負担すれば足りるものであるから、相手方上山長春につき超過金額金二九万円、相手方上山長利、同上山三次につき各金一四万円、相手方上山長二につき金九万円をそれぞれ債務負担させることとするのが相当である。そして、それを前記分割価格に満たない分割しか受けられない申立人、相手方寺田マキ、同佐藤トシ子、同大村ヌイ、同三田やす子に対し調整することとする。なお、本件分割の算定の基礎とした価格は、価格鑑定を経たものではないこと等の事情からして、分割ないし調整価格につきある程度の差異の生ずることは止むを得ないところであり、これは社会通念上許容される誤差の範囲内に属するものとして、あえて厳密な修正は施さないこととする。

さらに、共有分割とされた不動産については、持分割合について現実の管理状況と必ずしも一致しないものも存するが、当事者において各不動産について正確な測量図等を提出しようとせずに審判を求めている本件においては、観念的持分割合を定める分割方法によるも止むを得ないところである。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小田八重子)

別紙遺産目録<省略>

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